手を伸ばせば、届く距離に君はいる。 でもそうしないのは・・・ 僕が臆病者だから・・・? 「君、何でいつも僕の部屋に居るの?」 いつものように、仕事を終えて自分の部屋に戻れば、ソファーに寝転んで寛いでる男が一人。 「お帰り、雲雀」 悪びれた様子のない彼に、僕は溜息を吐く気力すらない。 もぅ日常と化してきているこの会話。 この風景。 君が其処に在ることが、当たり前になっている。 それが堪らなく腹立たしい。 「さっさと帰ってくれない? 僕、群れるのは嫌いなんだ」 絶対不可侵領域。 それを易々と侵して、僕の中に入ってくる彼。 苛々する。 咬み殺したい。 「いーじゃん。 雲雀が帰ってきたら、一番におかえりって言いたかったんだしさ」 「意味が分からないよ。 僕はべつに君にそんな事言ってもらいたくもない。」 呆れた顔をして、血の付いた上着を脱ぎ捨てた。 「・・・怪我・・・したのか?」 「そんな訳ないでしょ? 返り血だよ」 「そっか・・・よかった。 雲雀が怪我したんじゃなくて。」 まったくもって訳の分からない。 何故彼が嬉しそうにするのか。 そして何で、僕は彼の顔を見て安心しているのか。 「訳が分からない」 「なんだよ。 好きな奴の心配したら、だめか?」 赤い顔。 まっすぐ僕を捕らえる漆黒。 吸い込まれそうだ。 「・・・・はぁ・・・君といると疲れる。 早く帰ってくれない?」 「もう少し、雲雀といたい」 赤い顔をしたまま、僕のシャツの裾を握って見つめてくる漆黒。 あぁ 壊してしまいたい。 僕の中の、獣が吠えた。 それを、僕の中の何かが抑える。 「君ね・・・・そんな事言ってると襲うよ」 「雲雀にだったら・・・良い・・・」 いけない。 抑えられなくなりそうだ。 それでも必死に、僕は僕を抑えている。 傷つけたくないのだと。 泣かせたくないのだと。 どうかしている。 僕らしくない。 理由は分かっている。 僕もきっと彼と同じなのだ。 「雲雀の事、好きだから・・・ だから、雲雀にだったら、俺は良いよ」 僕も、彼が・・・ 「くだらない。 君邪魔だから、さっさと帰りなよ」 僕も彼が好きだ。 だからこそ、傷つけないようにと、泣かせたくないと。 そんなくだらない感情を抱いているんだ。 「雲雀!!」 「・・・言っておいてあげるよ。 僕はね、君の事・・・・大嫌いだよ」 手を伸ばせば、届くんだ。 勇気を出せば、この腕の中に閉じ込めておける。 でも、僕はそれをしない。 僕は孤高の浮雲。 誰にも縛られない。 誰も縛らない。 だからこそ・・・・ 僕はその手を伸ばさない。coward本当はただ、僕が僕でなくなるのが恐ろしいだけ。