誰かを護りたいと思った事はなかった。

ただ・・・

護る事が仕事だから。

護る事が、私の生きている意味だと思っていたから。

それが出来なくなって、棄てられるのが怖かった。

彼に出会うまで。






財団法人 クランプ学園。
幼等部・初等部・中等部・高等部・大学・大学院とで成る学園。
この学園は、日本一の大財閥『妹之山』が、未来をしょって立つ若者達の
ささやかな学び舎なれと、私財のみで完成した
巨大な1つの『都市』である。
寄宿舎・研究所・映画館・病院・銀行など
ありとあらゆる『施設』がととのったこの学園都市には
学生・職員・関係者・その他施設業者、その家族等など
合わせてなんと一万人以上が登校、生活している。
才能ある者の為に、家柄・資産等は全く関係なく門戸を開き
特出・卓越した才能の持ち主が多いことでも有名なこのCLAMP学園は
その反面、そのお祭り大好きな性質でも名を馳せている。
その他に、この学園のもう1つの大きな特徴。
それは幼等部・初等部・中等部・高等部・大学・大学院それぞれに
『学生会』という管理執行組織があり
各等部の運営は全て、それぞれの学生会が行う点である。
理事会・PTA・教職員・教授連をはるかに凌ぐ実権を持つ『学生会』
そして、このCLAMP学園一の人気を誇る初等部学生会の三人。
会長・妹之山残、書記・鷹村蘇芳、会計・伊集院玲。
この三人がつい最近結成したのが、この世の全ての女性のしあわせのためだけに死力を尽くす
『CLAMP学園探偵団』である。



「妹之山・・・・残」
「そう、それがお前の護るべきお方だ」
「分かりました・・・」
「残さんを、お願いしますね。
家17代目頭首、さん」
「お任せください理事長。
わたくしが、この命に代えましても御守りします。
我家紋の誇りに掛けて。」



初等部Zクラス前。
其処に私は立っていた。
妹之山理事長直々のご依頼により、私は妹之山財閥の末弟、妹之山残様を護衛することになったからだ。
本当は私は15だから中等部三年に編入するはずだったんだけど、
私がどんな時でも護れるようにしたいからと無理を言って初等部六年のZクラスに編入させてもらったのである。

「ではさん、入ってください」

担任で在ろう女性の声。
それにハッとして、私は頷いてからゆっくりと中に入った。
教室中を見渡して、一番最初に確認したのは勿論妹之山様の席。
席はなるべく近いほうが良い。
予め席を確認しておけば適当に理由をつけて前後、若しくは左右に座ろうと思っていたのだが・・・

「(妹之山様の隣が空いてる・・・理事長が気を遣ってくださった?)」
さん、皆さんに自己紹介をしてくれるかしら?」
「あ、はい。
皆様初めまして、私はと申します。
不慣れな事も多々御座いますが、早く皆様と馴染めるよう努力しますのでよろしくお願いします。」

姿勢良くお辞儀をして、やんわりと微笑みば、クラスメイトたちもそれに応えて微笑んでくれる。
勿論、妹之山様も。
彼の表情に、何故か胸の奥がざわめくのを感じたが、私は何も感じない振りをした。
一限目が終了すると、私の周りにはアッという間に人だかりが出来た。
やはり転入生と言うのはとても珍しいのだろう。
色々な質問を投げかけられてはそれに素早く応えてを繰り返す。

「すみません、ちょっと良いですか?」

鶴の一声。
と言うわけではないが、妹之山様の一言で、一気に周りは静かになり私の目の前には妹之山様が笑顔で立っていた。
また、胸の奥が静かにざわめく。
鼓動が速度をまして、息が詰まっていくような感覚。

「えっと・・・貴方は・・?」
「失礼しました。
僕は妹之山残と申します。
初めまして、さん」
「妹之山・・・あぁ、この学園を設立なされた妹之山財閥の末裔・・・
そして初等部学生会の会長様・・・でしたよね?」
「えぇ、知っていてくださったんですか?」
「私が以前通っていた学園でも、貴方の事は有名でしたので一応お名前と役職は」
「貴方のようなお綺麗な方に知っていていただけて光栄ですよ」
「あら・・・くすくす、お上手ですこと。
それで・・・妹之山会長は私に何か御用でしょうか?」
「その・・・宜しければ僕に、この学園の案内をさせていただけませんか?」

彼の言葉に、周りの女子はそれはそれは本当に羨ましそうな目で私を見た。
そんな風に見られても・・・一体私はどうすれば良いのだろうか。
と言うか、年下なのに彼は紳士と言うか・・・
一瞬自分が年上だと言う事を忘れそうになってしまう。
いや、まぁ、今は一応同年代だけどさ。

さん?」
「(いきなり名前呼びですか・・・まぁ良いけど・・・って言うか他の女子なら多分卒倒もんなんだろうなぁ)
すみません、年齢に関係なく女性におもてになられる妹之山会長に誘って頂けて、驚きの余り少しぼーっとしてしまいました。
もちろん、お願いします。
他ならぬ妹之山会長からのお誘いですもの、お断りするのは失礼ですもの」

そう言って微笑んで見せれば、彼はホッとしたような笑みを浮かべた。
取り敢えず一日で彼自身の事を少なからず理解出来るだろう。
護るべき相手の事はどんな事だろうが知っておいて損はないのだし、折角のチャンスを、私は有効に活用する事にした。






月日とは早い物で、私が編入してきてから約三ヶ月が経過した。
今日は初等部企画の野球大会がサラダボールドームで開催されている。
私は選手ではないので、取り敢えず観覧席で白熱した試合を結構楽しみながら見ていた。

「(妹之山様は運動が苦手だと聞いたけど・・・この試合には出てるのかしら?)」

そう思い期待はしていたが、やっぱりと言うべきか、彼は野球には参加せず監督として指示を出していた。
まぁそれも、鷹村君が対戦チーム側に居たので失敗に終わっていたけど。

「お疲れ様です、妹之山会長、鷹村書記、伊集院会計」
さん!見ていらしたんですね」
「会長、この方は・・・・」
「前に話しただろう?僕のクラスに編入してきたさんだ」
「確か、この間の演奏会で会長のピアノ演奏に合わせて歌っていらした方ですよね?」
「覚えて居て下さって光栄です、鷹村書記。
ご挨拶が遅れました、私はと申します、以後お見知りおきを」

私は二人にニッコリと微笑んでから、妹之山様に向き直る。

「私は妹之山会長が試合に出てくれることを期待したんですが・・・
参加されてなくて残念でした」

そう言って苦笑すれば、妹之山様は少し焦ったように笑う。

「そう言えば、会長はいつも試合にはお出になりませんよね・・・
どうしてですか?」
「はっはっはっ・・・他の生徒に花を持たせるのが会長の務め」
「(あぁ・・・・やっぱり運動は苦手なのね。
人間誰しも欠点はあるものか・・・でもそれが妹之山様となると・・・何故かしら、とても面白いわ)」
『伊集院、先輩、会長の前で運動の話は禁句なんですよ』
「え?どうしてですか?」
「・・・・・・
会長は運動神経が不自由な人なんだ。」
「やっぱり・・・・」
「えぇ?!でもいつだったか、木の上から女の人を発見した時は物凄い反射神経で・・・・」
「(木の上から?・・・って事は飛び降りたの・・・?
まったく、やんちゃと言うかなんと言うか・・・・)」

伊集院会計の言葉に、私はもう苦笑いを零すしかなかった。
どうやら私が護る方は相当な曲者らしい。
などと考えながら、私は三方に失礼しますとお辞儀をしてからその場を離れた。
彼等がその場を離れると、何処からともなく女子達が顔をだす。
それに内心かなり驚いたが、顔には出さず取り敢えず彼女達の横を通り過ぎる。
彼女達は来週開催される『初等部・幼等部合同舞踏会』の話題で盛り上がっていた。
まぁその内容はやはりあの三人がらみなのだが・・・
私は女子生徒たちから離れた場所へ移動しようと踵を返す。
すると、妹之山様たちが去って行った先を、寂しげに見つめる少女を見つけた。
これは仕事柄の勘だったが、彼女対して頭の中では静かに警報が鳴っていた。
そう、『危険』だと。

「(勘は的中・・・かしら)」

あの少女を見つけた翌日から、初等部学生会に対して色々と嫌がらせの手紙やらが送られているようだ。
その内容は全て一緒。
『舞踏会を中止しろ』と、それだけだった。
それが、学生会室の扉にだったり、学生会室の中だったり、はたまた妹之山様の下駄箱の扉だったり・・・
兎に角至る所に同じ文章の垂れ幕やらがあった。

「妹之山会長、大丈夫ですか?」
さん・・・・」
「少しお疲れみたいですね」
「大丈夫ですよ」
「あまり無理をなさらないで下さい。
明日は舞踏会会場の準備ですし、せめて今日くらいはゆっくりなさってくださいな。
でないと、準備中に怪我でもなさったら大変でしょう?」
「そうですね・・・・」
「何か甘いものでも召し上がりますか?
鞄の中にチョコがいくつか入っているんですが」
「頂いても良いんですか?」
「もちろん」

そう言って、私は妹之山様にチョコの入った包みを渡す。
今の私に出来るのはそれくらいだ。
それが何故か心苦しいのだけれど・・・
その理由はもう考えない事にした。

「(なんだか変な気分ね・・・・この人の傍は居心地が良いだなんて)」

今思えば、私は護衛する人物と此処まで話したりしたことはなかった。
それは相手が大人だったとか、私自身が他人に興味なかったとか色々な理由があるけれど・・・
この人はそんなものを全て消してしまったようだ。
自分よりも年下で、なのにそうは感じさせないくらい大人びていて、本当に面白い発想をする彼。
私は彼に興味を持ってしまったようだ。

「(あまり・・・良いことではないわね・・・情を持ってしまうなんて)」

心の中で、私は自分に喝を入れてから立ち上がった。
あまり長い時間一緒に居てはいけない。
本当に私は彼に揺れてしまうだろうから。
そう思って、今日はもう彼の傍を離れて影から護衛しようと決めた。

「では妹之山会長、ごきげんよう」
「待ってください!」

彼は私の手を掴んで、私の動きを止める。
掴まれた場所が熱い。
然程キツク握られているわけではないのだけど・・・
どうしてか鼓動の音が早く大きくなっている。
ダメだ・・・
このままじゃ・・・

「何・・・か・・・・?」
「その・・・・明後日、舞踏会の日の夜7時に初等部学生会室に来てください・・・」
「・・・・わ・・・・分かりました・・・・」

静かに頷けば、ゆっくりと彼のてが離される。
それがとても寂しい。
気付いた時には時既に遅し。
そう言う事があるが、今回がまさにそれだ。
私はすでに、彼に情が移ってしまっている。
守人失格だ。

「(まったく・・・・年下に惚れるなんて・・・どうかしちゃってるわ。)」

苦笑いを零すも、そんなに嫌な気にはならなかった。

翌日。
ガメラ館では明日の舞踏会の準備が進められていた。
私は妹之山様の指示に従い作業を進めていく。
ふと顔を上げた。
彼に近付く影が見えて、危ないと思った瞬間、その影が妹之山様の背を押す。
その様がスローモーションのようにゆっくりと私の脳裏に焼きつき、心の奥に恐怖を植えつける。

「残様!!!!!」

上から落ちてくる妹之山様の名前を叫んで、私は彼に向かって走る。
そして・・・

さん?!」

床を蹴って空中で妹之山様の身体を抱きとめた。
そのまま崩した体勢を整える間もなく、私の身体はフロアに叩きつけられた。
情けない。
体勢を整える事すら出来ないだなんて・・・
家の名に泥を塗ってしまった。
そんな事が頭の中に巡ったが、それよりも私は妹之山様が気がかりだった。

「会長!!!!」
先輩!!!!」
「残・・・様・・・っ・・・大丈夫ですか・・・?」
「僕の事より貴女だ!!
強く身体を打ち付けてしまったでしょう?!」
「大丈夫ですよ。
私は、慣れてますから」

零れる苦笑いを見て、妹之山様は酷く顔を顰めた。

「(そんな顔しないで・・・私は・・・貴方にそんな顔してほしくないの)」

言葉を飲み込んだ私は、一度視線を床に落としてから上を見上げた。
影の主は先日の少女だ。
私は何度も大人を怯ませた目で彼女を見た。
案の定、彼女は怯えたような顔を見せる。
自業自得だ。
冷たい私が言い放ち、彼女を睨み続けた。

・・・さん・・・?」
「大丈夫です。
のこ・・・・・妹之山会長がお怪我をなされてなくて良かった」

そう言って私は立ち上がる。
筈だった。
フロアに身体を打ちつけたとき、足首を捻ってしまったらしい。
私の身体は立ち上がる事無く、もう一度床に倒れた。
ますます情けない。
自分の情けなさに吐き気までしてきた。

「誰か担架を!」
「はい!!」





先輩、大丈夫ですか・・・?」
「えぇ、ただの捻挫ですもの。
私の事はあまり気になさらないでください」
さん・・・・」
「妹之山会長も、そんな顔しないで下さい・・・ね・・・?」

安心して、と言う意味を込めて、私は微笑んで見せた。
が、それも結局は意味がなかったらしい。
彼はますます俯いてしまった。

「でも眩暈でも起こしたんですか?
会長、突然おちたり・・・」
「落ちたんじゃない」
「「え?」」
「落とされたんだ」

私は三人の様子を、何も言わずただ見つめていた。
どうやら妹之山様は自分になんらかの危害が加わる事は分かっていたらしい。
脅迫電話までかけていたのだとか・・・
それでも彼が舞踏会を中止しない理由は、犯人が舞踏会に参加する事ともう1つ。
彼の事情で舞踏会を中止して、楽しみにしている女子生徒の笑顔を曇らせたくないかららしい。
本当に、どこまでも女性には優しい方だ。
でも、私の心には少し痛みが走る。
彼の特別にはなれない、そう分かってしまうから。

さん・・・・」
「何ですか・・・?」
「明日の事ですが・・・」
「7時でしたね?ちゃんと行きますよ?」
「・・・・ありがとうございます」
「いいえ、どう致しまして」

彼等が出て行った後、私は溜息をついて窓の外を見た。
憎らしいくらいの青空。
思わず泣きたくなる。
好きな人に、この思いはきっと届かない。
伝える事は、私には赦されない。
私の立場は、彼の傍に居る事を許されたものじゃないから・・・
私のこの位置は、彼を護るためだけに存在するんだもの。
この仕事が終われば、私は二度と彼の前には現れてはいけない。
それが掟。
今ほど私は自分の血を恨んだ事はないだろう。
そして、私は初めて一粒の涙を流した。




「紳士淑女の皆様
今日は初等部学生会主催『初等部・幼等部合同舞踏会』へようこそ。
どうか心行くまで、優雅な一時をお楽しみください」
「残様素敵!」
「一体誰と踊るのかしら」
「(きっと・・・彼女でしょうね)」
「残様と踊れるなんて、幸せできっと窒息するわ!」

舞踏会当日。
私は目立たないように、黒のシンプルなドレスを着て会場の隅にいた。
妹之山様から視線は外さない。
何があっても動けるように十分警戒しておく。
もちろん、彼女が妹之山様に危害を加えようものなら、私は容赦なくそれを阻止するけど・・・
きっとその心配はないのだろう。
ゆっくりと、妹之山様が彼女に近付く。

「(最初から、分かっていたのね)」

泣き出す彼女に、妹之山様は方膝を付いて手を差し伸べた。
ダンスに誘ったのだろう。
少女が嬉しそうに微笑んでいる。

「(羨ましい・・・私には、彼と踊る資格も権利もないのに・・・)」

くだらない考えだ。
以前ならこんなことは考えなかったのに。
どうしても、考えてしまう。
いっその事この仕事はもう降りた方が良いかもしれない。
また以前のように、汚い仕事でもしていたほうが私にはお似合いなんだ。
こんな平穏な生活よりも、危険で薄汚い仕事の方が、薄汚い私には・・・・
会場の壁に凭れ、腕組をして妹之山様から注意をそらさないようにと、それだけに思考をもっていこうとするのに。
余計なことばかり。

「(ダメね・・・・もう・・・私はだめだわ・・・棄てられてしまう)」

護るべき人に心を奪われては、もうまともに仕事など出来ない。
そういう人間は西園寺には必要ない。
の家紋に泥を塗ってしまう前に、私は棄てられた方が良いんだ。

「(これが終わったら父上と理事長にお話ししなきゃ・・・・7時・・・・これが、彼に会う最期の時ね)」

私は覚悟を決めて、最期の仕事くらいは精一杯やろうと気を張った。
結局、妹之山様は彼女以外とは誰も踊らず、追いかけてくる女子生徒達から初等部学生会の三人は逃げて行った。
彼等の後を、私は誰にも気付かれないように追っていく。
終わりの時間が、少しづつ近付いた。
現在午後6時50分。
私は初等部学生会室の前に居た。
きっともう彼は中に居る。
私は中々扉を開けられない。
これを開けてしまったら、全て終わってしまう。
覚悟はしたつもりだったけど、直前になるとどうしても揺らいでしまう。

「・・・・・ふぅ・・・馬鹿・・・ね・・・・」

小さな声で呟いた。
どんな事にも終わりは必ず訪れるのだから・・・
それが、少し早くなっただけ

「・・・失礼します」

深呼吸して、静かに扉を開いた。
やっぱり中には既に妹之山様が居て、微笑顔を私に向けている。

「呼び出してしまってすみません」
「いいえ・・・良いんです。」
「どうしても、貴女に伝えたい事があるんです」
「伝えたい・・・・事・・・ですか・・・・?」
「えぇ・・・・」

ゆっくりと、彼が私に近付いてくる。
一歩一歩確実に。
私は手を握って、逃げてしまいそうになるのを抑える。

「貴女が編入してきてから、どうやら僕は誰かに護られているみたいなんです。
以前はつけられていたのに、僕をつけていた人たちも貴女が来てすぐに居なくなった。
それだけじゃない。
僕がこけそうになったり、怪我をしそうになったりする度に、僕は助けられるんです。
貴女に」
「・・・・・・」
「貴女が来てから、僕はずっと見守られてきた。
貴女に。
貴女は・・・・一体何者なんですか?」
「・・・・・はぁ・・・気付いてたのね。
流石だわ・・・・
ご挨拶が遅れました。
わたくしは
守人の一族、家17代目現頭首でございます。
この度は理事長のご依頼を受け、妹之山残様を影ながら護衛させていただいておりました。
申し出なかったご無礼をお許しください。」

幼少期から親に叩き込まれた作法で、深々と頭を下げる。
そこに、私自身の感情はない。
いや、申し訳なかったという感情はあるが、声は機械的に音を紡ぐだけだった。

家・・・・」
「ご存知ないでしょう。
我等一族の存在は知る人間も今では極僅かですので。
昔は鷹村と名を争うほどであったのですが、我々は護衛する人間を選びませんから・・・
それに・・・
の名は、もう守人としてではありませんからね・・・」

私は自嘲の笑みを浮かべた。
私だって、護る仕事もしてきた。
でもそれ以上に、汚れ仕事の方が確実に上なのだ。

「そうですか・・・・
僕が伝えたかったのは・・・まず1つ。
貴女にお礼が言いたかったんです。」
「・・・・お礼・・・?」
「今まで僕を何度も助けてくださったでしょう?」
「・・・・・それが、仕事ですから」
「それでも、僕は本当に何度も貴女に助けられました。
有難うございます。
そして・・・・もう1つ・・・・・」
「・・・なんでしょう・・・・」
「           」
「え・・・・・・・?」

聞こえなかった。
違う、聞きたくなかったんだ。
聞いてしまえば、全て揺らいで、消えてしまうから。
決意も何もかも、崩れてしまうから。

さん・・・・」
「やめてっ!聞きたくないっ
私は・・・私はっ・・・」

一歩一歩、彼が渡しに近付いてくる。
一歩一歩、私は彼から遠ざかる。
どれくらい同じ事を続けていたのか、私の背は壁に付き、逃げ場を失った。
憎たらしい程、優しい顔をした妹之山様が、私を見つめている。
逃げたい。
この場から立ち去りたい。
そんな私の心の内を知ってか知らずか、彼は私の前に跪き手の甲に優しく唇を押し付けた。

「僕は、貴方が好きなんです」

一番聞きたくなかった言葉だった。
聞いてはいけない言葉だった。
聞いてしまえば、私はもう自分を抑えられなくなってしまうから。
なのに、彼は易々とその言葉を言ってのけたのだ。
嬉しさと、悲しさと、苦しさと、後悔が、私の心に波のように押し寄せた。

「だから、これからも僕の傍にいてください。」
「でもっ・・・私は・・・」
「貴女は、今日で僕を守る役目を降りて、二度と会えないところに言ってしまうおつもりでしょう?」

バレていた。
全て、この人には何一つ隠す事が出来なかった。

「だから、僕の方からお願いしたんです。
理事長と、貴女のお父上に。」
「理事長と・・・父上に・・・・?」
「えぇ。
貴女を、僕専属の守人にしてくださいと」

跪いたまま、ニッコリと女の子が大好きな笑顔を私に向けて、彼は言った。
今まで欲しいと思っていても、けして望んではいけなかったソレが、私に向けられている。
そして、彼は私が傍に居ることを望んでくれている。

「お二人の了承は頂きました。
ですから・・・・僕の傍にいてはくれませんか?」

私の手を握って、まっすぐに向けられた視線が、冷え切った心を射抜いた。
私には、イエス以外を言う術など持っていない。
でも、少しだけ、私は彼に意地悪をしてしまいたくなったのだ。

「残様・・・ありがとうございます。
私のような人間に、そんな事を言ってくださって。
本当に感謝しています。
でも、今までのように、私が残様のお傍に居ることは許されません。」
「そんなっ・・・でも・・・」
「申し訳ございません。
でも、父上と理事長の了承は得られているなら、またきっと・・・
残様の近くで、私は残様をお守りいたします。」

苦笑いを浮かべて、彼の頬に唇を落とした。
悲しそうな顔をする彼に、チクリと心が痛む。

「私はまた、残様の元へ帰って参ります。
ですからソレまで、お返事は預からせて頂きますね。」

そう言い残して、私は彼の元を去った。


あれから一週間。

「はぁ・・・」

「最近残様、元気ありませんわね」
さんが転校してしまってからですわ・・・」
「まさか残様さんが!!」
「そんなっ!」

「会長!!」
「蘇芳?どうしたんだそんなに慌てて」
「ちょっと来て下さい!!」


廊下を走る音が聞こえる。
さっき鷹村書記が私を見て驚いたような顔をしていたから、きっと彼を呼びに行ったんだろう。
私から行って驚かせたかったんだけど、まぁいっか。

「おい蘇芳!一体どうしたんだ?」

来た来た。
私はゆっくり立ち上がって、彼が来るであろう方向を見た。
この一週間、何だかとても長かったように感じる。

「残様!」

鷹村書記に引っ張られて、息を切らしている彼の名を呼ぶ。
すると彼は驚いたように目を見開いた。

・・・さん・・・」
「はい。」
さん!」
「残様・・・。
お久しぶりです、妹之山残様。
この度、クランプ学園中等部三年に編集して参りました、です。」
「中等部に・・・編入・・・?」

滴る汗を拭うこともせず、彼は私の目の前まで走ってた。
あの時のまま、綺麗な瞳が私を映している。

「あの時は、残様をお守りするため、理事長に無理を言って初等部に編入させていただいたのですが・・・
私、本当は15なんで中等部の三年生なんです」

微笑んで言えば、彼は呆気にとられた様な顔をしつつも微笑んだ。
私の好きな、太陽の様な明るい笑顔で。

「以前のように、同じ教室でずっと一緒に居ることは出来ませんが・・・
これからは、もう残様から離れませんよ」

全てはそう、貴方にいつまでも笑っていて欲しいから。
だから私は、貴方を守ることに、生涯を掛ける事を選んだ。

「大好きです。
残様」
「僕も大好きですよっ。
さん!」








I put you under all of me



やってしまったクランプ夢っ
どんだけマイナー・・・・
大好きです残様。
あんな素敵な小学生だめだっ
お姉ちゃんいけないっ(危
クランプ学園の夢小説また書きたいです(*´ω`)←








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